手しごとに触れる

「組紐」
積み上げてきた歴史と経験が「伝える力」に変わる。
そんなことを強く感じた「練馬区伝統工芸展」。
場所は、練馬駅徒歩1分の練馬区立区民・産業プラザ「Coconeriホール」。
練馬区伝統工芸会が主催し、区内で受け継がれる伝統工芸16業種が集まり、
“みて ふれて ー 伝統の心と技” をテーマに、展示・実演・体験が行われている。
お茶会やチャリティー即売会も開催されている。
「東京染小紋」・「東京手描友禅」・「尺八」・「江戸刺繍」・「和裁」・「江戸筆」・「螺鈿蒔絵」・「東京額縁」・「江戸表具」・「組紐」・「江戸木彫刻」・「手織」・「東京彫金」・「陶芸」・「風呂敷染」・「椅子張り」の16業種。
JOBS FARMの拠点“練馬”。東京とはいえども地域は地域。
まずは「拠点地域の良さを伝えよう」と訪れた展示会。
入口でパンフレットを頂き、早速会場へ。
最初にお話を伺ったのが「東京額縁」新額堂・竹中 康さん。
「洋額は明治に入って、洋画が日本に入りだした頃からですかね。」
“額縁”の歴史について、話を聞くのは初めてだ。
「絵を見て、絵に合わせて額縁をつくる。」日本古来の漆技術を活かしつつ、時代の要求に沿った新しい感覚の額縁を。
いきなり“伝統”に触れさせていただく。

「東京額縁」
次に伺ったのは「江戸筆」の筆職人・亀井 正文さん。
「筆を使う機会が減った時代の中でも需要はある。」と力強く語っていただいた言葉が印象的。
実演中に作っていらっしゃたのが、映画で使用する看板の筆文字を書くための筆。
「コンピューターには出せない“字の味”を求めて、映画制作会社が注文してくれた。」

「江戸筆」
とはいえ筆は、時代の進行と共にさまざまな課題が伴うという。
動物の毛を使用するため、動物愛護の観点から原材料の減少と仕入れ価格の高騰。
大手メーカーによる大量生産の影響。
東日本大震災の影響によって、軸になる竹の仕入れ先の変更を余儀なくされたこと。
職人も年々減ったという現実。一聞するとネガティブな話なのに、亀井さんの言葉と表情にはネガティブどころかポジティブさを感じてしまう。
手しごとでしか保てない工法と品質への自信が伝わる。
続いて伺ったのは「江戸刺繍」猪上雅也刺繍工房・猪上 雅也さん。絹糸を使い一本一本糸の太さ・細かさ、よりの甘さなどを考えながら自分で糸をより、いろいろな技法を組み合わせて製作していく。
デザイン学校を出てすぐに親方に弟子入りし、今ではご自身の工房をひらく。
猪上さんに、“江戸刺繍を始められたきっかけ”を聞いてみた。
「もともと家が呉服屋で、着物に関わる“ものづくり”に携わりたかったんです。」
好きではじめられ、一針一針に想いを込める。実演では思わず顔を近づけて見入ってしまう。

「江戸刺繍」(思わず見入ってしまう細かさ)
あつかましくも“今後の業界動向”についても伺ってみた。
「最近の若い方のものづくりへの関心が薄いわけではない。」と話す一方で、
「これからの着物の需要にも左右されるとは思うんですが、これは伝統工芸全体に言えることですが、我々職人はつくるということと同時に、広めていく・伝えていく。ということが伝承には必要だと思うんです。」と語っていただきました。
「その課題をいかに解決するかに取り組んでいかないと。ということが鍵ですかね。」とも。
なり手が少ないわけではなく、“届ける幅を改善する”ことへの視点にとても共感させられました。
そして最後にお話を伺ったのが、「陶芸」増穂登り窯・太田 治孝さん。
まず目に止まったのが、あたたかみのある陶芸作品はさることながら、伝統工芸の展示会に「IoT」の文字。
「登り窯の技術の継承が課題。」と話し、それを解決されるために、山梨県増穂にある登り窯に最新のIoT科学技術を導入。
「自分が伝えられなくなった時にでも、データは残り続ける。」

雑誌“陶遊” 「増穂登り窯」掲載記事

「登り窯」・「陶芸」
YouTubeで窯焚きの動画なども配信する。
昔ながらの職人気質の“見て盗んで成長しろ”という文化や考えを全く感じさせない太田さん。
“時代の進化とともに進む陶芸界”という新しい感覚に触れる。
なり手の課題という視点とともに、“技術を伝え残す”という使命感を強く感じるお話を伺わせていただきました。
今年で第31回。
「去年はこれを買ったから。」「毎年ありがとうございます。」という会話を頻繁に耳にする。
販売会を兼ねた展示会なのに、どの業種の方も一切売り込みはしない。
これもリピーターやファンの方々が多いポイントの一つだろう。
何より、職人さんたちのイキイキとした雰囲気に触れることができる。
職人さんやつくり手さんの話を伺って、共通して感じることは、
「伝統の中にある歴史と経験がもたらす“伝える力”。」
伝統を重んじ、継承してきた人だからこそ出る、話の力強さ。話の濃さ。話の深さ。
機械をつかって同じようにつくることはできるかもしれない。
でも「手しごと」が生み・育む伝統は、人にしかつくることはできない。
追伸)
今回ご紹介させていただいた方々の他にも、多くの方のお話を伺い、練馬の伝統工芸の魅力に触れさせていただきました。
お話を伺わせていただいた皆さまには、この場をお借りして、心よりお礼申し上げます。
(2019/10/26 取材:西谷良造)